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31
天木眞希が初めてその男を意識したのは、一週間ほど前だった。
たぶん、いつでも彼はホームの同じ場所に立っていたのだ。
そして、眞希を見ていた。
どうして、オンナでもない自分にそんなに熱い視線を投げかけるのか、と自問しながら、眞希はとうにその理由を知っていた。
男のほうに綺麗に整った横顔を見せながら、眞希はゆっくり息を吐き出した。
息苦しいほどの視線は無遠慮に眞希を絡め取っていた。
眞希はどうしてもそちらを見ることが出来なかった。
その視線の意味を知ってなお、視線をあわせることはできなかったのだ。
怖かった。
まだ小学校のころでさえ、天木眞希の美貌は際立っていた。
整いすぎた容貌は同じ年頃の少女たちにもてはやされるよりも敬遠された。
近寄りがたかったし、少女たちのあいだでは彼に近づかないとい不文律が出来上がっていた。
同性の間でさえ、眞希の顔はちょっとした悪ふざけのネタになっていたことを眞希はしらなかった。
眞希自身は多少、気は強いが、ごくごく普通の少年だった。
少なくとも、あの夏が来るまでは。
電車を降りたとき、後ろから腕をつかまれた。
都内の私立高校に向かう途中だった。
ぎょっとして振りほどこうとする眞希を抱え込むようにして、男が歩き出した。
さっき自分を見ていた男だと気づいたときには、ホームを降りる階段の中ごろまで来ていた。
「放してください。」
腕をひねるようにして眞希は抗った。
けれども男は眞希に向かい合って、その肩を掴むと揺さぶった。
「付き合ってくれ」
そう告白されたのは、階段を降りきった少し広いスペースに差し掛かったところだった。
まわりは、足早に通り過ぎる、通勤通学の人たちで溢れていた。
駅の中は風も通らず、よどんだ熱い空気が立ち込めていた。
必死で眞希の腕を掴んでいる男の手は熱かった。
「君をずっと見ていたんだ。どうしようもなく、好きなんだ。」
そういう男の目は真剣そのものだった。
どうやってその場を逃れてきたのか、あとで思い出してもはっきりとはしなかった。
男の言葉は性質の悪い冗談にしか思えなかったが、その眼差しを思い出すと息苦しくなった。
男を押しのけるか、つかまれた腕を振りほどくかして、多分逃げてきたのだ。
『付き合ってくれ』
とはどういう意味だったのか、何か用事でもあったのか、もしかしてそれだけだったのかもしれないと、眞希は思い込もうとしたが、男の眼差しの残像が邪魔をした。
体の奥で、まだ知らぬ情動が、無垢なままでいようとする眞希を裏切った。
少なくともその日の授業内容は、一つも眞希の頭に残らなかった。
******
「なに、ぼんやりしてるの?」
そう声をかけられて、自分が、夕食を食べかけたまま物思いにふけっていたことに気づいた。斜め向かいに座っている母親が不審そうな視線を投げかけてきた。
「お兄ちゃん、最近おかしい」
まだ中学生の妹が、唇を尖らせた。
妹の真美は綺麗な顔立ちの兄が自慢だった。
もっと幼いころは、兄のお嫁さんになるのだといって聞かず、それが出来ないとわかるようになってからは、兄に熱い視線を注ぐ少女たちを敵視した。
眞希にとっては、可愛くもあり、うっとおしくもある妹であった。
「なんでもない」
と答えたそばから、駅での出来事を細かに思い出していた。
腕を振り切ったのではない。
向かいあって
『付き合ってくれ。』
といったときには男は腕を放していたのだ。
眞希は口の中で、もごもごと断りの言葉を発すると、男に背を向けて走ったのだった。
決してそれ以上無理強いされたわけではなかったから、家族にも、友人にも話さなかった。
だが、それから二週間ほどした学校帰りに、同じ男が眞希を待っていた。
「君、お願いだ。話を聞いてくれないか。」
ほかに同級生がいたにも関わらず、そう話しかけられて。
なんだ? と言う風に眞希の顔を窺った同級生はまるで、何かを悟ったように、
「じゃ、俺、先行ってるわ」
と、眞希を残していってしまった。
あまり嬉しくない誤解を招いたのかもしれないと思った。
「なんですか?」
そう向かい合って聞き返したとき、眞希は初めて男の顔をはっきりと見ていた。
たぶんハンサムという部類に入るのだろう。
「その、良ければ近くの店で話さないか。」
男の言い方は控えめだったが、必死なほどの強引さがあった。
どう断ろうかと思っているうちに、軽く腕をつかまれて、駅を出てすぐの喫茶店に導かれた。
「おごるよ。ケーキとか好き?」
まるで、女の子をナンパしているようだと思いながら、眞希はその印象が決して間違いないだろうと確信していた。
困るのだと、自分はそういう類の人間ではないのだと。
どう伝えたものかと考えながら、それでも眞希は男の向かい側の席に座った。
とりわけ好きな女の子がいるわけではなかったけれど、自分は同性を好きになる傾向は無いと思っていたし、ごく普通の結婚をして普通の人生を送る類の人間だと思っていた。
けれど、こうして向かい合っている緊迫した状況が、なぜか、自分を興奮させていたのも事実だった。
「君は、男の人を好きになったことはない?」
穏やかな聞き方だった。
「ありません」
即座に眞希は答えた。
「そう」
困ったように、男は、手元のコーヒーをじっと見ていた。
「前から、ずっと君を見ていた。好きになった。と言ったら困るかい?」
相手が男であっても、好きになったと言われれば、嫌ではなかった。
「ときどき、こんな風にあってくれないか。一緒にお茶を飲む。それだけでいいんだ。」
「でも……」
断るつもりでいたのに、そういう言い方をされると、それくらいならいいかという気になった。
世間を知らぬ高校生ゆえの浅はかさであったと、後になって眞希は知ることになるのだが。
はっきりと断りもせず、かといって承諾したわけでもなく、眞希は男と話していた。
もっともほとんどは男が一方的に自分のことを話すのに、頷くばかりであったが。
男の名は、松田祐平といった。
25歳の会社員で、眞希の家から五つほど離れた駅の近くのアパートに住んでいるという。
今春から、眞希と同じ電車で通勤をはじめ、眞希の姿を見つけ意識するようになったのだという。
「男が好きなんですか?」
眞希の問いかけは、まだ、世の中の曖昧さというものを知らない高校生ゆえの純粋で、容赦ないものだった。
松田は眞希に注いだ視線を揺らしながら、微かに頷いた。
そういう問いかけも、純粋さゆえの残酷さももう、ずっと早くから味わってきて、いまさら傷つきはしなかったのだ。
「けど、誰でもいいってわけじゃない。」
まだ、硬いつぼみのような青年になりかけのときを、その一瞬を愛するのだと、松田は、思ったが、口には出さなかった。
松田にとっても、まだ、この美貌の少年との時間は、育てていくべきもの、だったのだ。
決して無理強いする気もなかったし、本気で嫌がられれば引くつもりでいた。
その日二人は、二時間ほどをその店で過ごした。
さりげない自己紹介を交えながら、良く見るテレビ番組の話などをしただけだったが、眞希にとっては決して苦痛なだけの時間ではなかった。
******
遅くなったことをどう言い訳しようかと思いながら帰ると、母親は夕食の支度で台所に立っていた。
眞希はそっと階段を上って、自分の部屋に入った。
見つかったら、もうとっくに帰っていたと言うつもりだった。
けれども、妹の真美に見つかった。
「おにいちゃん、遅い。何してたの?」
しーっと、唇の前に人差し指を立てて、眞希は自分の部屋に飛び込んだ。
いつもうざいくらい付きまとう真美が珍しくついてはこなかった。
パタンと、音がした。
どうやら自分の部屋に入ったらしい。
ほっと胸をなでおろしながら、眞希は今日の出来事を思い出す。
男に告白されたというだけでも衝撃的だったのに、その男と一緒に喫茶店にまでいってしまった。
友人たちと出かけるのは、マクドやファミレスがほとんどだったから、どことなく居心地が悪かったのだが、ちょっとだけ、背伸びした自分が誇らしくもあった。
好きだといわれて、たとえそれが男でも嫌ではなかった。
少なくとも同性を愛する人の嗜好を軽蔑することはなかった。
それよりも、甘やかして居心地良くしてくれそうな松田との付き合いにはどこかふわふわした非現実的なものが感じられた。
******
その後も学校帰りに眞希は松田と話をしに、喫茶店に入ることが何度かあった。
夏の肌にまとわりつくような熱気から逃れて、冷たいコーラやジュースを飲みながら、学校のことや、友人のことを話した。
いつの間にか立場は逆転して、眞希のほうが話すことが多くなった。
松田は眞希にとっては優秀な聞き手だった。
時々相槌を打ちながら、学校での愚痴や、友人たちの話を楽しそうに聞いてくれた。
男の兄弟のいない眞希にとっては、話のわかる兄のように思えて、次第に、悩み事まで相談するようになっていった。
松田の視線は眞希の綺麗な顔の上から離れることはなかったが、それが、いつでも熱心に話を聞いてくれるという印象を眞希に与えるのだった。
******
「良かったら夏休みに旅行に行かないかい?」
そんな風に誘われたのは、終業式を二日後に控えたときのことだった。
え、と、一瞬だったが眞希が警戒したのは否めない。
「何か、おかしなこと考えなかった?」
笑いながら松田がからかった。
「心配だったら日帰りでもいいよ。」
そこまで疑ったわけではないが、眞希には、この居心地いい関係が変わることなど考えられなかったのだ。
眞希にとっての松田は、自分を甘やかしてくれる、物分かりのいい大人の代表のようなものだったのだ。
人を愛するということの片鱗さえ理解していなかった眞希だったが、人並みに甘えることにだけは長けていた。
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たぶん、いつでも彼はホームの同じ場所に立っていたのだ。
そして、眞希を見ていた。
どうして、オンナでもない自分にそんなに熱い視線を投げかけるのか、と自問しながら、眞希はとうにその理由を知っていた。
男のほうに綺麗に整った横顔を見せながら、眞希はゆっくり息を吐き出した。
息苦しいほどの視線は無遠慮に眞希を絡め取っていた。
眞希はどうしてもそちらを見ることが出来なかった。
その視線の意味を知ってなお、視線をあわせることはできなかったのだ。
怖かった。
まだ小学校のころでさえ、天木眞希の美貌は際立っていた。
整いすぎた容貌は同じ年頃の少女たちにもてはやされるよりも敬遠された。
近寄りがたかったし、少女たちのあいだでは彼に近づかないとい不文律が出来上がっていた。
同性の間でさえ、眞希の顔はちょっとした悪ふざけのネタになっていたことを眞希はしらなかった。
眞希自身は多少、気は強いが、ごくごく普通の少年だった。
少なくとも、あの夏が来るまでは。
電車を降りたとき、後ろから腕をつかまれた。
都内の私立高校に向かう途中だった。
ぎょっとして振りほどこうとする眞希を抱え込むようにして、男が歩き出した。
さっき自分を見ていた男だと気づいたときには、ホームを降りる階段の中ごろまで来ていた。
「放してください。」
腕をひねるようにして眞希は抗った。
けれども男は眞希に向かい合って、その肩を掴むと揺さぶった。
「付き合ってくれ」
そう告白されたのは、階段を降りきった少し広いスペースに差し掛かったところだった。
まわりは、足早に通り過ぎる、通勤通学の人たちで溢れていた。
駅の中は風も通らず、よどんだ熱い空気が立ち込めていた。
必死で眞希の腕を掴んでいる男の手は熱かった。
「君をずっと見ていたんだ。どうしようもなく、好きなんだ。」
そういう男の目は真剣そのものだった。
どうやってその場を逃れてきたのか、あとで思い出してもはっきりとはしなかった。
男の言葉は性質の悪い冗談にしか思えなかったが、その眼差しを思い出すと息苦しくなった。
男を押しのけるか、つかまれた腕を振りほどくかして、多分逃げてきたのだ。
『付き合ってくれ』
とはどういう意味だったのか、何か用事でもあったのか、もしかしてそれだけだったのかもしれないと、眞希は思い込もうとしたが、男の眼差しの残像が邪魔をした。
体の奥で、まだ知らぬ情動が、無垢なままでいようとする眞希を裏切った。
少なくともその日の授業内容は、一つも眞希の頭に残らなかった。
******
「なに、ぼんやりしてるの?」
そう声をかけられて、自分が、夕食を食べかけたまま物思いにふけっていたことに気づいた。斜め向かいに座っている母親が不審そうな視線を投げかけてきた。
「お兄ちゃん、最近おかしい」
まだ中学生の妹が、唇を尖らせた。
妹の真美は綺麗な顔立ちの兄が自慢だった。
もっと幼いころは、兄のお嫁さんになるのだといって聞かず、それが出来ないとわかるようになってからは、兄に熱い視線を注ぐ少女たちを敵視した。
眞希にとっては、可愛くもあり、うっとおしくもある妹であった。
「なんでもない」
と答えたそばから、駅での出来事を細かに思い出していた。
腕を振り切ったのではない。
向かいあって
『付き合ってくれ。』
といったときには男は腕を放していたのだ。
眞希は口の中で、もごもごと断りの言葉を発すると、男に背を向けて走ったのだった。
決してそれ以上無理強いされたわけではなかったから、家族にも、友人にも話さなかった。
だが、それから二週間ほどした学校帰りに、同じ男が眞希を待っていた。
「君、お願いだ。話を聞いてくれないか。」
ほかに同級生がいたにも関わらず、そう話しかけられて。
なんだ? と言う風に眞希の顔を窺った同級生はまるで、何かを悟ったように、
「じゃ、俺、先行ってるわ」
と、眞希を残していってしまった。
あまり嬉しくない誤解を招いたのかもしれないと思った。
「なんですか?」
そう向かい合って聞き返したとき、眞希は初めて男の顔をはっきりと見ていた。
たぶんハンサムという部類に入るのだろう。
「その、良ければ近くの店で話さないか。」
男の言い方は控えめだったが、必死なほどの強引さがあった。
どう断ろうかと思っているうちに、軽く腕をつかまれて、駅を出てすぐの喫茶店に導かれた。
「おごるよ。ケーキとか好き?」
まるで、女の子をナンパしているようだと思いながら、眞希はその印象が決して間違いないだろうと確信していた。
困るのだと、自分はそういう類の人間ではないのだと。
どう伝えたものかと考えながら、それでも眞希は男の向かい側の席に座った。
とりわけ好きな女の子がいるわけではなかったけれど、自分は同性を好きになる傾向は無いと思っていたし、ごく普通の結婚をして普通の人生を送る類の人間だと思っていた。
けれど、こうして向かい合っている緊迫した状況が、なぜか、自分を興奮させていたのも事実だった。
「君は、男の人を好きになったことはない?」
穏やかな聞き方だった。
「ありません」
即座に眞希は答えた。
「そう」
困ったように、男は、手元のコーヒーをじっと見ていた。
「前から、ずっと君を見ていた。好きになった。と言ったら困るかい?」
相手が男であっても、好きになったと言われれば、嫌ではなかった。
「ときどき、こんな風にあってくれないか。一緒にお茶を飲む。それだけでいいんだ。」
「でも……」
断るつもりでいたのに、そういう言い方をされると、それくらいならいいかという気になった。
世間を知らぬ高校生ゆえの浅はかさであったと、後になって眞希は知ることになるのだが。
はっきりと断りもせず、かといって承諾したわけでもなく、眞希は男と話していた。
もっともほとんどは男が一方的に自分のことを話すのに、頷くばかりであったが。
男の名は、松田祐平といった。
25歳の会社員で、眞希の家から五つほど離れた駅の近くのアパートに住んでいるという。
今春から、眞希と同じ電車で通勤をはじめ、眞希の姿を見つけ意識するようになったのだという。
「男が好きなんですか?」
眞希の問いかけは、まだ、世の中の曖昧さというものを知らない高校生ゆえの純粋で、容赦ないものだった。
松田は眞希に注いだ視線を揺らしながら、微かに頷いた。
そういう問いかけも、純粋さゆえの残酷さももう、ずっと早くから味わってきて、いまさら傷つきはしなかったのだ。
「けど、誰でもいいってわけじゃない。」
まだ、硬いつぼみのような青年になりかけのときを、その一瞬を愛するのだと、松田は、思ったが、口には出さなかった。
松田にとっても、まだ、この美貌の少年との時間は、育てていくべきもの、だったのだ。
決して無理強いする気もなかったし、本気で嫌がられれば引くつもりでいた。
その日二人は、二時間ほどをその店で過ごした。
さりげない自己紹介を交えながら、良く見るテレビ番組の話などをしただけだったが、眞希にとっては決して苦痛なだけの時間ではなかった。
******
遅くなったことをどう言い訳しようかと思いながら帰ると、母親は夕食の支度で台所に立っていた。
眞希はそっと階段を上って、自分の部屋に入った。
見つかったら、もうとっくに帰っていたと言うつもりだった。
けれども、妹の真美に見つかった。
「おにいちゃん、遅い。何してたの?」
しーっと、唇の前に人差し指を立てて、眞希は自分の部屋に飛び込んだ。
いつもうざいくらい付きまとう真美が珍しくついてはこなかった。
パタンと、音がした。
どうやら自分の部屋に入ったらしい。
ほっと胸をなでおろしながら、眞希は今日の出来事を思い出す。
男に告白されたというだけでも衝撃的だったのに、その男と一緒に喫茶店にまでいってしまった。
友人たちと出かけるのは、マクドやファミレスがほとんどだったから、どことなく居心地が悪かったのだが、ちょっとだけ、背伸びした自分が誇らしくもあった。
好きだといわれて、たとえそれが男でも嫌ではなかった。
少なくとも同性を愛する人の嗜好を軽蔑することはなかった。
それよりも、甘やかして居心地良くしてくれそうな松田との付き合いにはどこかふわふわした非現実的なものが感じられた。
******
その後も学校帰りに眞希は松田と話をしに、喫茶店に入ることが何度かあった。
夏の肌にまとわりつくような熱気から逃れて、冷たいコーラやジュースを飲みながら、学校のことや、友人のことを話した。
いつの間にか立場は逆転して、眞希のほうが話すことが多くなった。
松田は眞希にとっては優秀な聞き手だった。
時々相槌を打ちながら、学校での愚痴や、友人たちの話を楽しそうに聞いてくれた。
男の兄弟のいない眞希にとっては、話のわかる兄のように思えて、次第に、悩み事まで相談するようになっていった。
松田の視線は眞希の綺麗な顔の上から離れることはなかったが、それが、いつでも熱心に話を聞いてくれるという印象を眞希に与えるのだった。
******
「良かったら夏休みに旅行に行かないかい?」
そんな風に誘われたのは、終業式を二日後に控えたときのことだった。
え、と、一瞬だったが眞希が警戒したのは否めない。
「何か、おかしなこと考えなかった?」
笑いながら松田がからかった。
「心配だったら日帰りでもいいよ。」
そこまで疑ったわけではないが、眞希には、この居心地いい関係が変わることなど考えられなかったのだ。
眞希にとっての松田は、自分を甘やかしてくれる、物分かりのいい大人の代表のようなものだったのだ。
人を愛するということの片鱗さえ理解していなかった眞希だったが、人並みに甘えることにだけは長けていた。
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2008/08/31(日) 10:28 | trackback(0) |
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